スターメー・アーチャー AWタイプ 内装3段変速機のメンテナンス
2010.10.16/Sat/23:04:15
【AW 内装変速ハブとは】
英国の自転車パーツメーカー Sturmey Archer が 1936年に発売した自転車用内装型3速後輪ハブです。数ある同社の製品の中で「傑作」とも呼ばれています。世に出てからすでに74年も経っているのに基本設計が変わっていないということから、その完成度がわかるというものです。
耐久性も折り紙つきで、めったなことでは壊れません。
私のあこがれの自転車である Bromptom にも標準搭載されています。
私の自転車に搭載されている AW ハブギアですが、ハブの周りに識別情報が刻印されています。

(Sturmey Archer の刻印)

(Three Speed AW Hub Gear)

(1998年9月 英国製)
【分解・清掃・再組み立て】
この内装ハブの完全な分解と組み立ては大変です。通常の工具の他に「バイス(万力)」と「Cスパナ」というものが必要です。

(Cスパナ)
ということで、簡単にできるレベルで止めるという方針で行きます。
後輪を自転車のフレームから外すとスプロケット側のハブが良く見えるようになりますが、このハブを完全に分解するためにはこのスプロケット側の半円形のくぼみを利用して、強い力でアウターハブにねじ込まれている内部シェルを引き出さなければなりません。

ところが、この部分は人間のペダリングの力で強くねじ込まれている所で、手でひねってもびくともしません。したがって、ここを外すにはCスパナを使うか、このくぼみに貫通ドライバーを当て、ハンマーでたたいて外します。今回はそこまではしないことにして、簡単にやれる範囲でメンテを行います。
車軸の左右にベアリングの玉押し(corn)を固定するロックナットがありますので、これを緩めて外します。

(車軸左側)

(車軸右側)
左側玉押しを外すと、このようにクラッチスプリングが飛び出してきます。この先端には緑色プラスチック製のクラッチスプリングキャップがありますのでなくさないように注意します。

この状態から、スプロケットを持って部品(ドライバー)を引き上げると、構造が見える位に内部が開口します。

この状態で注意すべきことは、変速用のチェーン(ギア・インジケーター・アクスル)は、内部でアクスル・キーという小さいピンに数回転のレベルでねじ込まれていて、うっかりするとすぐ取れてしまいます。取れた状態ではアクスル・キーが内部で脱落しやすいので、変速用のチェーンは常に付けておくように気を付けなければいけません。

(アクスル・キーと、その接続部分)
玉押しを取ることで分解できるのはこのレベルですが、内部が開放するので、この状態でスプレータイプのブレーキクリーナーを内部にまんべんなく噴射することで内部の古い油脂や汚れを溶かし、きれいにすることができます。次の写真は、一通り清掃を終えた状況。

こちらは、スプロケットが直結しているドライバーです。この4本付き出たアームがペダリングの力を変速機に伝える役割を果たしています。部品としては大きな強度が要求される所です。内部の部品はほとんどが焼き入れされた炭素鋼でできた強固な材質で、言わば自動車のトランスミッションレベルの部品の材質でできています。壊れにくいというのもうなずけます。

このドライバーにはベアリングが2か所。内側は車軸を支えるベアリング。外側はペダルの回転が最初に伝わるスプロケットの回転を支えるベアリングです。どちらもリテーナー付きなので、ベアリングの玉がこぼれおちてしまうようなことはありません。

さて再組み立てですが、組みつける前にオイルアップを行います。オイルの鉄則は、低速で力が加わる部分にはグリス、高速で回転する部分にはオイルということで、この変速機の「内部」にはグリスを入れることは望ましくありません。公式メンテナンスマニュアルによると、
For Bearings - SA103B
For all other internal parts - SA103A
と記載されていて、本来なら純正の SA103A というオイルを内部に塗布するのが望ましいのですが、手近にあった National のシェーバーオイルを入れて、それで良しとしました。
ベアリング部にはグリースを盛りつけます。こちらは左側車軸部分。

こちらは、ドライバー部分内側。

ドライバー部分外側にもこのように盛りつけます。銀色の部分のカップにグリースを入れておくことで、外部からの水やゴミの侵入をシャットアウトすることができます。

玉押しを取り付け、ベアリングがスムーズに動き、なおかつガタがない位置でロックナットを使って締めつけます。その際に、玉押しが締めこまれて行かないように、薄型のハブコーンレンチが必要ですが、今回は先日買ったダイソーの薄型レンチが活躍しました。

(ダイソーで買った薄型レンチ)
これで、ハブは組みつけ完了です。

あとは、自転車のフレームに取り付け、変速ワイヤーの位置調整を行います。整備マニュアルに書いてありますが、このAWハブギアの変速ワイヤーの位置調整は、変速コントローラーを「2速」にセットした状態で、変速チェーンの先の金属部分の小さな切り欠き部分が、観測窓のハブ軸先端とちょうど合わさる位置にセットすればOKです。

(変速チェーンの位置合わせ)
これで、滑らかな変速と軽やかな後輪の回転を得ることができました。
もし、本体をハブシェルから取り外して細部のメンテナンスをするのであれば、以下の工具があると便利です。
カラ割りをするためのドライバーは、必ず「貫通ドライバー」でないといけません。打撃のパワーを柄が吸収してしまうと瞬間的な力が得られません。また、上記エンジニア アンヴィルバイスは、金属製の台座が付いていて、非常に便利です。Black and Decker 社のワークベンチは、軽量の廉価製品と比べると、そこそこの重量があって安定感があります。動かないように足をかけるステップが付いているところもポイントです。
【関連記事】
スターメーアーチャー AW-3 のコアパーツの交換
スターメー・アーチャー AW-3 のオーバーホール
スターメーアーチャーの「カラ割り」をしてみた
折りたたみ自転車前輪ハブのメンテナンス
ペダルのベアリングのメンテナンス
自転車ヘッド部のメンテナンス
AW ハブギアのメンテナンスマニュアル(PDF)
Sturmey Archer 社公式ホームページ
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最後までご覧いただきまして、どうもありがとうございました。
英国の自転車パーツメーカー Sturmey Archer が 1936年に発売した自転車用内装型3速後輪ハブです。数ある同社の製品の中で「傑作」とも呼ばれています。世に出てからすでに74年も経っているのに基本設計が変わっていないということから、その完成度がわかるというものです。
耐久性も折り紙つきで、めったなことでは壊れません。
私のあこがれの自転車である Bromptom にも標準搭載されています。
私の自転車に搭載されている AW ハブギアですが、ハブの周りに識別情報が刻印されています。

(Sturmey Archer の刻印)

(Three Speed AW Hub Gear)

(1998年9月 英国製)
【分解・清掃・再組み立て】
この内装ハブの完全な分解と組み立ては大変です。通常の工具の他に「バイス(万力)」と「Cスパナ」というものが必要です。

(Cスパナ)
ということで、簡単にできるレベルで止めるという方針で行きます。
後輪を自転車のフレームから外すとスプロケット側のハブが良く見えるようになりますが、このハブを完全に分解するためにはこのスプロケット側の半円形のくぼみを利用して、強い力でアウターハブにねじ込まれている内部シェルを引き出さなければなりません。

ところが、この部分は人間のペダリングの力で強くねじ込まれている所で、手でひねってもびくともしません。したがって、ここを外すにはCスパナを使うか、このくぼみに貫通ドライバーを当て、ハンマーでたたいて外します。今回はそこまではしないことにして、簡単にやれる範囲でメンテを行います。
車軸の左右にベアリングの玉押し(corn)を固定するロックナットがありますので、これを緩めて外します。

(車軸左側)

(車軸右側)
左側玉押しを外すと、このようにクラッチスプリングが飛び出してきます。この先端には緑色プラスチック製のクラッチスプリングキャップがありますのでなくさないように注意します。

この状態から、スプロケットを持って部品(ドライバー)を引き上げると、構造が見える位に内部が開口します。

この状態で注意すべきことは、変速用のチェーン(ギア・インジケーター・アクスル)は、内部でアクスル・キーという小さいピンに数回転のレベルでねじ込まれていて、うっかりするとすぐ取れてしまいます。取れた状態ではアクスル・キーが内部で脱落しやすいので、変速用のチェーンは常に付けておくように気を付けなければいけません。

(アクスル・キーと、その接続部分)
玉押しを取ることで分解できるのはこのレベルですが、内部が開放するので、この状態でスプレータイプのブレーキクリーナーを内部にまんべんなく噴射することで内部の古い油脂や汚れを溶かし、きれいにすることができます。次の写真は、一通り清掃を終えた状況。

こちらは、スプロケットが直結しているドライバーです。この4本付き出たアームがペダリングの力を変速機に伝える役割を果たしています。部品としては大きな強度が要求される所です。内部の部品はほとんどが焼き入れされた炭素鋼でできた強固な材質で、言わば自動車のトランスミッションレベルの部品の材質でできています。壊れにくいというのもうなずけます。

このドライバーにはベアリングが2か所。内側は車軸を支えるベアリング。外側はペダルの回転が最初に伝わるスプロケットの回転を支えるベアリングです。どちらもリテーナー付きなので、ベアリングの玉がこぼれおちてしまうようなことはありません。

さて再組み立てですが、組みつける前にオイルアップを行います。オイルの鉄則は、低速で力が加わる部分にはグリス、高速で回転する部分にはオイルということで、この変速機の「内部」にはグリスを入れることは望ましくありません。公式メンテナンスマニュアルによると、
For Bearings - SA103B
For all other internal parts - SA103A
と記載されていて、本来なら純正の SA103A というオイルを内部に塗布するのが望ましいのですが、手近にあった National のシェーバーオイルを入れて、それで良しとしました。
ベアリング部にはグリースを盛りつけます。こちらは左側車軸部分。

こちらは、ドライバー部分内側。

ドライバー部分外側にもこのように盛りつけます。銀色の部分のカップにグリースを入れておくことで、外部からの水やゴミの侵入をシャットアウトすることができます。

玉押しを取り付け、ベアリングがスムーズに動き、なおかつガタがない位置でロックナットを使って締めつけます。その際に、玉押しが締めこまれて行かないように、薄型のハブコーンレンチが必要ですが、今回は先日買ったダイソーの薄型レンチが活躍しました。

(ダイソーで買った薄型レンチ)
これで、ハブは組みつけ完了です。

あとは、自転車のフレームに取り付け、変速ワイヤーの位置調整を行います。整備マニュアルに書いてありますが、このAWハブギアの変速ワイヤーの位置調整は、変速コントローラーを「2速」にセットした状態で、変速チェーンの先の金属部分の小さな切り欠き部分が、観測窓のハブ軸先端とちょうど合わさる位置にセットすればOKです。

(変速チェーンの位置合わせ)
これで、滑らかな変速と軽やかな後輪の回転を得ることができました。
もし、本体をハブシェルから取り外して細部のメンテナンスをするのであれば、以下の工具があると便利です。
カラ割りをするためのドライバーは、必ず「貫通ドライバー」でないといけません。打撃のパワーを柄が吸収してしまうと瞬間的な力が得られません。また、上記エンジニア アンヴィルバイスは、金属製の台座が付いていて、非常に便利です。Black and Decker 社のワークベンチは、軽量の廉価製品と比べると、そこそこの重量があって安定感があります。動かないように足をかけるステップが付いているところもポイントです。
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折りたたみ自転車前輪ハブのメンテナンス
ペダルのベアリングのメンテナンス
自転車ヘッド部のメンテナンス
AW ハブギアのメンテナンスマニュアル(PDF)
Sturmey Archer 社公式ホームページ
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最後までご覧いただきまして、どうもありがとうございました。
カテゴリ: 自転車・アウトドア
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この記事に対するコメント
古い台湾ブロンプトンを手に入れて、最近フリーがやたらぐらぐらするのに気がついて「玉押しは、構造はどうなってるのか」と調べてこちらにたどり着きました。おかげ様でトラブルが解消します。特にハブギアのマニュアルが見られたこと、簡易分解の様子が分かりやすく説明されていたことに深く感謝いたします。事後報告になり甚だ恐縮ですが、twitterで紹介させていただきました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
URL | 囀猫 #-
2023/01/08 23:34 * 編集 *
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2023/01/08 23:34 * 編集 *
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