オーバーステア、アンダーステアの誤解
2010.07.03/Sat/22:52:21
【オーバーステア、アンダーステア】
クルマに興味がある人であれば、「オーバーステア」、「アンダーステア」という言葉を知っていると思います。これらの言葉はクルマのハンドリング特性を表すのに使われます。ところがよく使われる割に、あまり適切に使われていないケースがあります。
「オーバーステア」、「アンダーステア」は、よく下記のような図で説明されます。クルマが右に旋回しようとした場合の図ですが、Aはアンダーステアを表し、Bはニュートラルステア、Cはオーバーステアを示しています。

(誤解が生じやすい図解)
私が描いた図ではありますが、この図は誤解が生じやすい図だと思います。この図を素直にみると「アンダーステア」はクルマの旋回性能が低く、「オーバーステア」の旋回性能が高い、つまり「オーバーステア」のクルマのほうが望ましいような印象に見えてしまいます。これは正しくありません。アンダーステア、オーバーステアはクルマの旋回性能を示す特性ではありません。
一般にクルマのハンドリングはニュートラルステアか弱アンダーステアが良いとされています。
【よくある誤解】
オーバーステア、アンダーステアで、よくある誤解は下記のようなものだと思います。
<誤った使い方>
「オーバー」「アンダー」はハンドルの切れ具合を表すものではないのです。
【オーバー、アンダーの本来の意味】
「オーバーステア」、「アンダーステア」の本来の意味はこうです。
図示するとこのようになります。

クルマの旋回性能限界付近までハンドルを切りこんでいった場合、車体がどのように回転するかというのがポイントなのです。オーバーステアのクルマは、言わば「スピンしやすい」クルマであるため操縦が難しくなります。したがって、最近のクルマは大抵、弱アンダーステアになるように設計されています。
決して「オーバーステア」なクルマが優れているわけではありません。オーバーステアなクルマは、低速域での運転が刺激的で楽しいというエンターテインメント要素はあるものの、決して高性能車ではありません。絶対性能を追求した最近の高性能車はほとんど「ニュートラルステア」を目指して設計されています。
【前後重量配分】
クルマのオーバーステア、アンダーステア特性を決める要素で重要なファクターが、前後重量配分とモーメントです。
例えば前後 60:40 のように前輪により多くの加重がかかっている場合、車体の中心よりも前輪側に車体重量が集中していることになります。するとコーナーリング時は、クルマの各部に対して遠心力が働きますが、その力は重量が重いほうが大きくなります。

同じサイズと規格のタイヤを4輪とも装着している場合、接地力(摩擦力)は、そのタイヤにかかっている重量が大きいほど高くなり、フロントヘビーなクルマは、前輪の方が接地摩擦力は原則高くなります。しかし完全な比例関係にはならず、フロントヘビーなクルマは、その遠心力(=コーナーリングフォース)の差の方が、接地摩擦力による横Gに対する対抗力よりもクルマの運動に影響し、アンダーステア傾向となります。
したがって、理想とされるニュートラルステアに近づけるためには、なるべく前後の重量配分を 50:50 に近づけることが重要です。BMW やポルシェなど、ハンドリングを重要視する自動車メーカーが前後重量配分に気を使っているのは、このようにハンドリングに大きな影響を与えるファクターだからです。
通常の乗用車はエンジンが前部にあり、何も考えずに設計すると自然と前輪への重量配分が高くなります。特に FFと呼ばれる前輪駆動車はこの傾向が高くなります。理想される「弱アンダー」にするためには設計上の工夫が必要になります。
そのため、ハンドリング性能、旋回性能を高める目的を持つ高性能車にはFR(フロントエンジン、リアドライブ)やMR(ミッドエンジン、リアドライブ)が必然的に多くなっています。
また、前後の重量配分は加速時に後ろ寄りになり、減速時に前寄りになります。したがって、同じ車でもブレーキングを適切に操作することによって動的な前後重量配分を操作することができます。うまいドライバーは前後の加重移動をうまく使って、アンダーやオーバーを消すことができます。アンダーやオーバーはクルマの一次的な付随特性なのですが、運転の仕方でいろいろと変えることができて、それがまた運転の奥深さになるわけです。
【モーメント】
クルマが向きを変えるためには車体が旋回方向に向きを変える必要があります。つまり車体が回転をしなければならないのですが、その回転のしやすさを表す指標として、モーメントがあります。具体的には車体が重いほど、車体重心から離れた重量物が多いほどモーメントが高いクルマになります。仮に前後重量配分が 50:50 であっても、モーメントの高いクルマは、重たいはずみ車を回し始める時のように、車体の向きが変わりにくくなります。
したがって、一般にモーメントの高いクルマはアンダーステア傾向になります。しかし、このモーメントによるアンダーステア傾向は、クルマの初期応答性や極めて高速にカーブを切り返すことが求められるレーシングカーレベルでは小さいほうが良いとされていますが、乗用車においてはある程度のモーメントを持っていた方が直進安定性が保てるため、一概に小さいほうが良いとも言えないファクターです。また、これは旋回時の動的特性(左右に向きを連続的に変える場合)と関係するファクターであり、一定旋回レベルで効いてくる前後重量配分に起因するアンダーステア特性とは別の性質のものです。
モーメントの低いクルマを作るための最も効果的な対策は形式をMR(ミッドシップエンジン、リアドライブ)とすることです。しかし、この形式のクルマはコストや実用性で問題となることが多いため、この方式を取り入れているクルマはフォーミュラーカーや一部のスポーツカーなど、少数の特殊なクルマに限られます。
【まとめ】
「オーバーステア」「アンダーステア」の理解を自分でも再確認したくて、記事にまとめました。何らかのお役に立てば幸いです。
-----
最後までご覧いただきまして、どうもありがとうございました。
クルマに興味がある人であれば、「オーバーステア」、「アンダーステア」という言葉を知っていると思います。これらの言葉はクルマのハンドリング特性を表すのに使われます。ところがよく使われる割に、あまり適切に使われていないケースがあります。
「オーバーステア」、「アンダーステア」は、よく下記のような図で説明されます。クルマが右に旋回しようとした場合の図ですが、Aはアンダーステアを表し、Bはニュートラルステア、Cはオーバーステアを示しています。

(誤解が生じやすい図解)
私が描いた図ではありますが、この図は誤解が生じやすい図だと思います。この図を素直にみると「アンダーステア」はクルマの旋回性能が低く、「オーバーステア」の旋回性能が高い、つまり「オーバーステア」のクルマのほうが望ましいような印象に見えてしまいます。これは正しくありません。アンダーステア、オーバーステアはクルマの旋回性能を示す特性ではありません。
一般にクルマのハンドリングはニュートラルステアか弱アンダーステアが良いとされています。
【よくある誤解】
オーバーステア、アンダーステアで、よくある誤解は下記のようなものだと思います。
<誤った使い方>
- 「オーバーステア気味なのでハンドルの操作は少しで良い」
- 「俺のクルマはアンダーステアだからハンドルを少し切っただけでは曲がらないんだよなー」
「オーバー」「アンダー」はハンドルの切れ具合を表すものではないのです。
【オーバー、アンダーの本来の意味】
「オーバーステア」、「アンダーステア」の本来の意味はこうです。
- 自動車が旋回限界を超えたとき、その車体の向きの変わる方向に着目
- オーバーステアとは後輪が先にブレイク(横方向の接地対抗力が不足)し、車体が旋回曲線よりも内側に切れ込んでしまう特性を持っていること
- アンダーステアとは前輪が先にブレイクし、車体の向きが旋回ラインよりも深く回転しない特性を持っていること
図示するとこのようになります。

クルマの旋回性能限界付近までハンドルを切りこんでいった場合、車体がどのように回転するかというのがポイントなのです。オーバーステアのクルマは、言わば「スピンしやすい」クルマであるため操縦が難しくなります。したがって、最近のクルマは大抵、弱アンダーステアになるように設計されています。
決して「オーバーステア」なクルマが優れているわけではありません。オーバーステアなクルマは、低速域での運転が刺激的で楽しいというエンターテインメント要素はあるものの、決して高性能車ではありません。絶対性能を追求した最近の高性能車はほとんど「ニュートラルステア」を目指して設計されています。
【前後重量配分】
クルマのオーバーステア、アンダーステア特性を決める要素で重要なファクターが、前後重量配分とモーメントです。
例えば前後 60:40 のように前輪により多くの加重がかかっている場合、車体の中心よりも前輪側に車体重量が集中していることになります。するとコーナーリング時は、クルマの各部に対して遠心力が働きますが、その力は重量が重いほうが大きくなります。

同じサイズと規格のタイヤを4輪とも装着している場合、接地力(摩擦力)は、そのタイヤにかかっている重量が大きいほど高くなり、フロントヘビーなクルマは、前輪の方が接地摩擦力は原則高くなります。しかし完全な比例関係にはならず、フロントヘビーなクルマは、その遠心力(=コーナーリングフォース)の差の方が、接地摩擦力による横Gに対する対抗力よりもクルマの運動に影響し、アンダーステア傾向となります。
したがって、理想とされるニュートラルステアに近づけるためには、なるべく前後の重量配分を 50:50 に近づけることが重要です。BMW やポルシェなど、ハンドリングを重要視する自動車メーカーが前後重量配分に気を使っているのは、このようにハンドリングに大きな影響を与えるファクターだからです。
通常の乗用車はエンジンが前部にあり、何も考えずに設計すると自然と前輪への重量配分が高くなります。特に FFと呼ばれる前輪駆動車はこの傾向が高くなります。理想される「弱アンダー」にするためには設計上の工夫が必要になります。
そのため、ハンドリング性能、旋回性能を高める目的を持つ高性能車にはFR(フロントエンジン、リアドライブ)やMR(ミッドエンジン、リアドライブ)が必然的に多くなっています。
また、前後の重量配分は加速時に後ろ寄りになり、減速時に前寄りになります。したがって、同じ車でもブレーキングを適切に操作することによって動的な前後重量配分を操作することができます。うまいドライバーは前後の加重移動をうまく使って、アンダーやオーバーを消すことができます。アンダーやオーバーはクルマの一次的な付随特性なのですが、運転の仕方でいろいろと変えることができて、それがまた運転の奥深さになるわけです。
【モーメント】
クルマが向きを変えるためには車体が旋回方向に向きを変える必要があります。つまり車体が回転をしなければならないのですが、その回転のしやすさを表す指標として、モーメントがあります。具体的には車体が重いほど、車体重心から離れた重量物が多いほどモーメントが高いクルマになります。仮に前後重量配分が 50:50 であっても、モーメントの高いクルマは、重たいはずみ車を回し始める時のように、車体の向きが変わりにくくなります。
したがって、一般にモーメントの高いクルマはアンダーステア傾向になります。しかし、このモーメントによるアンダーステア傾向は、クルマの初期応答性や極めて高速にカーブを切り返すことが求められるレーシングカーレベルでは小さいほうが良いとされていますが、乗用車においてはある程度のモーメントを持っていた方が直進安定性が保てるため、一概に小さいほうが良いとも言えないファクターです。また、これは旋回時の動的特性(左右に向きを連続的に変える場合)と関係するファクターであり、一定旋回レベルで効いてくる前後重量配分に起因するアンダーステア特性とは別の性質のものです。
モーメントの低いクルマを作るための最も効果的な対策は形式をMR(ミッドシップエンジン、リアドライブ)とすることです。しかし、この形式のクルマはコストや実用性で問題となることが多いため、この方式を取り入れているクルマはフォーミュラーカーや一部のスポーツカーなど、少数の特殊なクルマに限られます。
【まとめ】
「オーバーステア」「アンダーステア」の理解を自分でも再確認したくて、記事にまとめました。何らかのお役に立てば幸いです。
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最後までご覧いただきまして、どうもありがとうございました。
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カテゴリ: クルマ・バイク
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この記事に対するコメント
オーバー、アンダーについて知りたかったので、誤解なく知れる記事うpで助かりました
ありがとうございます
ありがとうございます
URL | 通りすがりさん #-
2013/07/05 15:08 * 編集 *
2013/07/05 15:08 * 編集 *
つたない文章ですが、お役に立ったと言うことで、嬉しい限りです。
今後の励みになります。ありがとうございました。
今後の励みになります。ありがとうございました。
URL | 館長 #-
2013/07/06 11:48 * 編集 *
2013/07/06 11:48 * 編集 *
確かアンダーとオーバーの本来の意味はニュートラルステアより膨らんだらアンダーその逆がオーバーとしか決まってなかったはず。あとから尾ひれがついていろいろ物議醸し出してるみたいだけど…
一般的にドリフトした時等、例え車の向きがコーナー内側に入り込んでるけどそれはニュートラルステアより膨らむのでアンダーステアって事になる。
一般的にドリフトした時等、例え車の向きがコーナー内側に入り込んでるけどそれはニュートラルステアより膨らむのでアンダーステアって事になる。
URL | 通りすがりさん #-
2016/01/16 21:27 * 編集 *
2016/01/16 21:27 * 編集 *
Re: タイトルなし
コメントありがとうございました。参考にさせていただきます。
URL | 館長 #-
2016/01/17 12:38 * 編集 *
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2016/01/17 12:38 * 編集 *
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