500GB SATA ハードディスク完全分解
2010.02.17/Wed/00:49:35
【ハードディスク今昔】
昔々、パソコンにはハードディスクなんてものは付いていませんでした。その代わりに何が付いていたかというと、最も昔はカセットテープインタフェースでした。これは、コンピューターに手で打ち込んだプログラムやデータを音声変調し、カセットテープに録音して保存する原始的なデータ保存方式でした。「パソコン」が「マイコン(マイクロコンピュータ)」と呼ばれていた頃の方式です。
その後、マイコンがパソコンと呼ばれるようになって、「フロッピーディスク」と呼ばれるものが付きました。フロッピーディスクが最も多く用いられたのがNECのPC-9801の頃。その頃のフロッピーは5インチ両面高密度(2HD)と呼ばれるもので、1枚のフロッピーで1.2MBもしくは1.44MBの記録が可能でした。
その後1984年頃、ハードディスクドライブという代物がパソコン向けに登場し、パソコンマニアの心をくすぐりました。当時のハードディスクの容量はたった「10MB」。とはいえ、当時はフロッピー2機で何とかOSを動かしていたパソコンにとって、10MBの記憶エリアが高速でアクセスできるなんて「夢のような商品」でした。
当時、フロッピー2機のついた最人気機種 NEC-9801VM2 の価格が約30万円。10MBのハードディスクは20万円程度したハズだと記憶しています(ちょっと自信ないが)。そんな状況が約20年前。それが今や 500GB のハードディスクは 5,000円です。(容量は 50,000倍、価格は 40分の1です)
私、2000年頃の証券会社のデータセンターを見学させてもらったことがありますが、冷蔵庫3台分程度のディスク装置を見せてもらって、「これが約15GB。値段は約1億円」と説明を受けたことがあります。ともかく記憶装置のスケールアップと技術革新は凄まじい。
【最新型 500GB HDD】
今回分解を思い立ったのは、HITACHI Global Storage の 500GB SATA 7200rpm モデル。型番は HDT725050VLA360。プラッタ(1枚の円盤)容量 166.6GB。の製品です。円盤一枚で 166GBの記憶容量を実現するために、この製品ではTMRヘッド、垂直磁気記録技術などのハイテクの粋を適用しています。
さて、このディスクを分解して中身を見てみることにします。
【分解してみよう】
これが、今回分解対象の HITACHI HDT725050VLA360。3.5インチの 500GB SATA ハードディスクです。

ラベルによると、中国製です。7200rpm の高速ドライブです。16MBのバッファメモリーを持っています。

ところが、ハードディスクと言うもの、簡単に分解できるようにはなっていません。ともかく「超精密機器」。最近のハードディスクは、ディスク回転時の気流でヘッドをごくわずか(10~30nm程度)浮上させてデータを読み書きしていて、その隙間はたばこの煙の粒子よりも小さく、ディスク内部は絶対にホコリが入らないようにしなくてはいけません。ハードディスクの容器を開けてしまうと、そのとたんにそのハードディスクは死にゆく存在になるため、素人がハードディスクを開けられるようにはなっていません。
下の写真のような「トルクス」という特殊ネジが使われていて、この特殊なネジを回さないと分解できないようになっています。

そこで、先日紹介したPCツールキットを使います。これにはトルクスドライバービットが装備されています。

分解する前に、HDDの裏側も見てみましょう。昔の話をすると、昔は半導体の集積度と汎用度が少なかったため、3.5インチHDDの裏側は全面的に基板になっていて、その基板をICや部品が埋め尽くしていました。ところが最近は基板も小さくなりました。ICの集積度が上がったためでしょう。

メインのLSIはこの Inferion のチップ。おそらくディスクコントロールのほぼすべての機能がこのチップに集積されているのでしょう。

貼付ラベルにも「ラベルやネジのどれかが取れていたり壊れていたら保証は無効」と書かれています。ともかく、正常なHDDは「絶対に」開けないことです。

この機種は4ピンの電源端子があります。旧型の電源しかない場合は電源供給が便利です。

ただし、この4ピンの電源と SATA 用の電源(写真左端)を両方同時に接続することは禁止です。動作保証しないと謳われています。

一部のネジはこのように透明なフィルムで覆われています。ともかく簡単には開けられないようになっています。

上蓋を止めているすべてのネジを外し、カバーを開けるとこのように内部を見ることができます。ディスク(プラッター)はピカピカで、見るからに超精密機械です。

内部の隅には何かがセットされています。

恐らくディスク内部の湿度を調整する乾燥剤のようなものだと思います。

これが「シッピングゾーン」です。最近のディスクはプラッターとヘッドの間が極めて狭いため、外部衝撃が加わるとヘッドがプラッターに接触する可能性があります。その可能性を低くするため、電源が入ってない時やディスクアクセスを行わない時はこのような「シッピングゾーン」にヘッド位置を移動し、ヘッドを固定化するようになっています。

こんな感じで、ヘッドの先端を持ち上げ、固定化します。

このシッピングゾーンだけを取り出してみると、このような部品です。

裏側の基板も外しました。

ここで、基板を裏返してみると、ここに半導体が見えます。これは16MBのディスクキャッシュ用メモリーです。型番を見ると K4S281632I-UC60。SAMSONG 製の 16MB の DRAM です。

基板を取り外すと、このように内部機器への配線用接点が現れます。

拡大してみると11ピン×2列=22本のピンが見えます。

そのピンがこの基板のパターンに密着して配線が行われるわけです。

これは、カバーにあった「空気調節口」です。HDDは「完全密封」ではなく、外気圧に応じて、内部の気圧を調整する(つまり若干の空気の出入りを許容する)構造になっています。

その空気穴の裏側には、誇りやチリが入らないよう、高密度なフィルターが設置されています。

ヘッドを駆動するアクチュエータはネオジム磁石で挟まれています。これは超強力な磁石で、良く見る黒色のフェライトコア磁石より数十倍強力です。この磁石同士をくっつけてしまったら、大人の力でも剥がせず、うっかりICカードやフロッピーディスク、電気機器にくっつけてしまったら相手が破壊されるくらいのパワーを持っています。

ヘッドを取り外します。

この部分のヘッドへの配線を外部に導いているプレートを外します。先程の「ピン」の部分の裏側です。ここにも「トルクス」ネジが使われています。HDDには通常のプラスネジは原則使われていません。

外れました。

アクチュエータ部と磁石部を外しました。何度も言うようですが、この磁石は極めて強力なので、無造作に机の引き出しなどに入れては行けません。用途がなければ、すぐに廃棄すべきだと思います。

アクチュエータを外すと、プラッターが良く見えるようになります。このHDDではプラッターは3枚。垂直磁気記録方式なので、プラッターの厚みは思いのほかあって、約2mmあります。

これが読み書き用ヘッドの拡大写真です。先端の針先のような部分はヘッドではなく、シッピングゾーン誘導用のピンです。そのちょっと内側の黒い四角の部分が読み書き用のヘッドです。

プラッターを固定しているボスを外すと、プラッターを1枚ずつ外すことができます。軸に対しての穴の大きさは全くもって遊びはなく、寸分の狂いもなくぴったりはまっていました。

プラッター回転用モーターをHDDケースから外しました。流体軸受けの高級モーターです。

このモーターのマウント部分も精密加工がされていて、回転軸がブレないようになっています。

モータのマウント部にはゴム製のパッキン(Oリング)が仕込まれていて、ここでも密封が保たれるような仕組みになっていました。

【分解を終えて】
ともかく現在のHDDは「超精密機械」です。部品をバラして、見て、触ってみると分かります。これを作れる企業は世界に数えるほどしかないということが改めてわかります。こんな芸術作品が数千円で売られているのだから、利用者にとっては幸せな世の中になりました。
バラした部品のうち、3枚のプラッターは非常に美しいので、コースターにでもして利用してみたいと思います。
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最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。
昔々、パソコンにはハードディスクなんてものは付いていませんでした。その代わりに何が付いていたかというと、最も昔はカセットテープインタフェースでした。これは、コンピューターに手で打ち込んだプログラムやデータを音声変調し、カセットテープに録音して保存する原始的なデータ保存方式でした。「パソコン」が「マイコン(マイクロコンピュータ)」と呼ばれていた頃の方式です。
その後、マイコンがパソコンと呼ばれるようになって、「フロッピーディスク」と呼ばれるものが付きました。フロッピーディスクが最も多く用いられたのがNECのPC-9801の頃。その頃のフロッピーは5インチ両面高密度(2HD)と呼ばれるもので、1枚のフロッピーで1.2MBもしくは1.44MBの記録が可能でした。
その後1984年頃、ハードディスクドライブという代物がパソコン向けに登場し、パソコンマニアの心をくすぐりました。当時のハードディスクの容量はたった「10MB」。とはいえ、当時はフロッピー2機で何とかOSを動かしていたパソコンにとって、10MBの記憶エリアが高速でアクセスできるなんて「夢のような商品」でした。
当時、フロッピー2機のついた最人気機種 NEC-9801VM2 の価格が約30万円。10MBのハードディスクは20万円程度したハズだと記憶しています(ちょっと自信ないが)。そんな状況が約20年前。それが今や 500GB のハードディスクは 5,000円です。(容量は 50,000倍、価格は 40分の1です)
私、2000年頃の証券会社のデータセンターを見学させてもらったことがありますが、冷蔵庫3台分程度のディスク装置を見せてもらって、「これが約15GB。値段は約1億円」と説明を受けたことがあります。ともかく記憶装置のスケールアップと技術革新は凄まじい。
【最新型 500GB HDD】
今回分解を思い立ったのは、HITACHI Global Storage の 500GB SATA 7200rpm モデル。型番は HDT725050VLA360。プラッタ(1枚の円盤)容量 166.6GB。の製品です。円盤一枚で 166GBの記憶容量を実現するために、この製品ではTMRヘッド、垂直磁気記録技術などのハイテクの粋を適用しています。
さて、このディスクを分解して中身を見てみることにします。
【分解してみよう】
これが、今回分解対象の HITACHI HDT725050VLA360。3.5インチの 500GB SATA ハードディスクです。

ラベルによると、中国製です。7200rpm の高速ドライブです。16MBのバッファメモリーを持っています。

ところが、ハードディスクと言うもの、簡単に分解できるようにはなっていません。ともかく「超精密機器」。最近のハードディスクは、ディスク回転時の気流でヘッドをごくわずか(10~30nm程度)浮上させてデータを読み書きしていて、その隙間はたばこの煙の粒子よりも小さく、ディスク内部は絶対にホコリが入らないようにしなくてはいけません。ハードディスクの容器を開けてしまうと、そのとたんにそのハードディスクは死にゆく存在になるため、素人がハードディスクを開けられるようにはなっていません。
下の写真のような「トルクス」という特殊ネジが使われていて、この特殊なネジを回さないと分解できないようになっています。

そこで、先日紹介したPCツールキットを使います。これにはトルクスドライバービットが装備されています。

分解する前に、HDDの裏側も見てみましょう。昔の話をすると、昔は半導体の集積度と汎用度が少なかったため、3.5インチHDDの裏側は全面的に基板になっていて、その基板をICや部品が埋め尽くしていました。ところが最近は基板も小さくなりました。ICの集積度が上がったためでしょう。

メインのLSIはこの Inferion のチップ。おそらくディスクコントロールのほぼすべての機能がこのチップに集積されているのでしょう。

貼付ラベルにも「ラベルやネジのどれかが取れていたり壊れていたら保証は無効」と書かれています。ともかく、正常なHDDは「絶対に」開けないことです。

この機種は4ピンの電源端子があります。旧型の電源しかない場合は電源供給が便利です。

ただし、この4ピンの電源と SATA 用の電源(写真左端)を両方同時に接続することは禁止です。動作保証しないと謳われています。

一部のネジはこのように透明なフィルムで覆われています。ともかく簡単には開けられないようになっています。

上蓋を止めているすべてのネジを外し、カバーを開けるとこのように内部を見ることができます。ディスク(プラッター)はピカピカで、見るからに超精密機械です。

内部の隅には何かがセットされています。

恐らくディスク内部の湿度を調整する乾燥剤のようなものだと思います。

これが「シッピングゾーン」です。最近のディスクはプラッターとヘッドの間が極めて狭いため、外部衝撃が加わるとヘッドがプラッターに接触する可能性があります。その可能性を低くするため、電源が入ってない時やディスクアクセスを行わない時はこのような「シッピングゾーン」にヘッド位置を移動し、ヘッドを固定化するようになっています。

こんな感じで、ヘッドの先端を持ち上げ、固定化します。

このシッピングゾーンだけを取り出してみると、このような部品です。

裏側の基板も外しました。

ここで、基板を裏返してみると、ここに半導体が見えます。これは16MBのディスクキャッシュ用メモリーです。型番を見ると K4S281632I-UC60。SAMSONG 製の 16MB の DRAM です。

基板を取り外すと、このように内部機器への配線用接点が現れます。

拡大してみると11ピン×2列=22本のピンが見えます。

そのピンがこの基板のパターンに密着して配線が行われるわけです。

これは、カバーにあった「空気調節口」です。HDDは「完全密封」ではなく、外気圧に応じて、内部の気圧を調整する(つまり若干の空気の出入りを許容する)構造になっています。

その空気穴の裏側には、誇りやチリが入らないよう、高密度なフィルターが設置されています。

ヘッドを駆動するアクチュエータはネオジム磁石で挟まれています。これは超強力な磁石で、良く見る黒色のフェライトコア磁石より数十倍強力です。この磁石同士をくっつけてしまったら、大人の力でも剥がせず、うっかりICカードやフロッピーディスク、電気機器にくっつけてしまったら相手が破壊されるくらいのパワーを持っています。

ヘッドを取り外します。

この部分のヘッドへの配線を外部に導いているプレートを外します。先程の「ピン」の部分の裏側です。ここにも「トルクス」ネジが使われています。HDDには通常のプラスネジは原則使われていません。

外れました。

アクチュエータ部と磁石部を外しました。何度も言うようですが、この磁石は極めて強力なので、無造作に机の引き出しなどに入れては行けません。用途がなければ、すぐに廃棄すべきだと思います。

アクチュエータを外すと、プラッターが良く見えるようになります。このHDDではプラッターは3枚。垂直磁気記録方式なので、プラッターの厚みは思いのほかあって、約2mmあります。

これが読み書き用ヘッドの拡大写真です。先端の針先のような部分はヘッドではなく、シッピングゾーン誘導用のピンです。そのちょっと内側の黒い四角の部分が読み書き用のヘッドです。

プラッターを固定しているボスを外すと、プラッターを1枚ずつ外すことができます。軸に対しての穴の大きさは全くもって遊びはなく、寸分の狂いもなくぴったりはまっていました。

プラッター回転用モーターをHDDケースから外しました。流体軸受けの高級モーターです。

このモーターのマウント部分も精密加工がされていて、回転軸がブレないようになっています。

モータのマウント部にはゴム製のパッキン(Oリング)が仕込まれていて、ここでも密封が保たれるような仕組みになっていました。

【分解を終えて】
ともかく現在のHDDは「超精密機械」です。部品をバラして、見て、触ってみると分かります。これを作れる企業は世界に数えるほどしかないということが改めてわかります。こんな芸術作品が数千円で売られているのだから、利用者にとっては幸せな世の中になりました。
バラした部品のうち、3枚のプラッターは非常に美しいので、コースターにでもして利用してみたいと思います。
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最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。
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